信長と天皇―中世的権威に挑む覇王
今谷 明

定価: ¥ 945
販売価格: ¥ 945
人気ランキング: 276418位
おすすめ度:

発売日: 2002-09
発売元: 講談社
発送可能時期: 通常24時間以内に発送
覇王が抱えた二つの課題
戦国時代を走馬灯のように駆け抜けた不世出の英雄、織田信長。その彼も桶狭間で今川義元を倒さなければ「覇王」への道をたどることはなかっただろう。その桶狭間でもうひとり得をした人物がいる。徳川家康である。信長が専制君主になるために絶対処置しなければならない存在に、天皇と家康があると思う。家康とは終始同盟者であったが、緊張がなかった訳ではなく、信長が天下統一の道を邁進する横で、東海道一帯を根拠地にして地位を盤石なものにしていったのが家康であるから、仮に信長が本能寺で倒されず、天皇の問題を処理できたとしても(秀吉は信長の臣下のまま)、強力になった家康との対立は不可避である。その程度のことは、信長ほどの人間なら解っていたはずだが、実際のところ、どう考えていた?!??だろう。興味しんしんである…。
今谷氏の「室町の王権」を併読すれば分かる通り、皇位簒奪直前までいった足利義満と比べ、信長の天皇システムに対する知識は浅く、ようするに準備不足であった。そこを正親町天皇に見透かされて、「覇王」から天皇の臣下たる「征夷大将軍」に甘んじねばならなくなった誤算であろう(最近の研究で信長が正親町天皇から将軍の地位を保証され、幕府を開く計画が進んでいたという説が有力になっているという)。
「覇王」信長は、苦虫をかむ思いであったろう。
織田信長は、専制君主になることが出来ず、かって彼が自分で今川義元を葬ったように、自分の臣下の明智光秀にあっけなく葬られることになる。
下天は夢か…
内容にも、出版形態にも疑問を感じる
以前、同じ出版社の新書で出ていたものの再刊。ただし、改訂部分はゼロに近い。紹介文にあるように「信長の最大の敵は当時の正親町天皇だった」というユニークな主張である。しかし、読み進めても正親町の名前すらなかなか出てこない。後半でようやく信長と天皇の関係が記されるが、その記述からは二人が「天下統一」を巡り、激しい闘争を行った姿は読み取れない。著者はこの書を3部作の最後と位置付けている。それならば同じ出版社から3巻本(新書でも可能だ)として出すべきだろう。が、実際には全て違う出版社から出ている。(今度の再刊で後の2冊はこの文庫に揃ったが…)或いは先の2書を読むと著者の室町~戦国期の公武関係についての見解がより明瞭になるかも知れぬが、本書の記述の(著者には失礼だが)ある種の強引さを知ると、もう十分。これは愚見のみならず、最近また議論が盛んな「本能寺の変」に関する著作のほぼ全てで著者の見解は評価されていない。たしかに承久の変とか後醍醐天皇のように局所的な公武対立は幾つかあるが、鎌倉幕府の成立以降、公武がそれぞれの役割分担で相補的に存在してきたという通説を揺るがす説得力は残念ながらこの書には見られない。それは、本書に書かれていない朝廷、公家衆の信長との密接な関係を知れば更に明らかになる(例:信長の主要な合戦には公家衆が彼の勝利を祈願し同行している)。つまり、徳川幕末の攘夷との関連で生まれた、勤皇、倒幕の思想を無批判に過去に遡らせてしまった点が最大の問題。実際、こうした批判に対して著者は反論できないようだ。文庫に際しての言葉の中で著者は「私の関心はすでに信長から離れた」と(正直に?)書いておられる。従って、この分野での重要な文献として語られることは今後、多いとは思えない。むしろ、本書を敢えて版形を変え(コストがかかる。実際新書時よりだいぶ高価になった)再刊する新刊多発の出版情勢が心配だ。